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IPO準備における各種経理処理・財務書類作成の注意点

はじめに
IPO(Initial Public Offering)は、企業が初めて株式を市場に公開する重要なプロセスです。上場を目指す企業には、資金調達や組織の成長、さらなる市場評価の向上など多くのメリットがあります。このプロセスの成功を手に入れるためには、経理、税務、法務、会計、財務の各種サポートが不可欠です。監査法人、公認会計士、税理士法人などの専門家の支援も重要になります。
1.IPO準備における経理処理のポイント
IPO準備中の経理処理は、上場後も含めた利害関係者・株式市場の信頼を勝ち取るために非常に重要です。
1.1 主な資産の評価と管理
棚卸資産の評価:
棚卸資産は、適切な評価方法(先入先出法、移動平均法等)によって評価します。誤った評価は会計処理の信頼性を損なうため、定期的な在庫確認と時価の見直しが必要です。
固定資産の評価:
固定資産の減価償却方法(定率法、定額法等)や耐用年数の見直しを適切に行うとともに、減損の兆候が発生していないかどうか確認する等、資産の実際価値を正確に反映させます。また、無形資産(のれん、特許権等)は、適切な評価を行い、その価値が過大評価されないよう慎重に検討します。
税効果:
IPO準備会社では、税効果会計を適用し繰延税金資産(負債)を計上する必要があります。ただし、計上可能額については、将来の事業計画に従った専門的判断が不可欠となるため専門家のサポートも受けながら慎重に検討します。
1.2 主な負債の管理
短期負債:
買掛金や短期借入金などの短期負債は、適切に管理し、期日通りの支払・返済計画を立てます。
長期負債:
社債や長期借入金の評価を適切に行い、将来の返済計画を明確にします。
引当金・資産除去債務:
IPO準備会社では、将来の発生可能性に従った退職給付債務や資産除去債務等の負債を計上する必要があります。ただし、将来の発生額の見積りと割引計算が求められるため、専門家のサポートを受けることが一般的です。
1.3 純資産の管理
株式とストックオプション:資本構成に関わる株式やストックオプションの適切な管理・評価が必要です。これには従業員への株式報酬も含みます。
2.IPO準備における財務書類の作成のポイント
IPO準備における適正な財務書類作成は、企業の透明性と信頼性を高めるうえで最も重要なポイントの一つです。
2.1 貸借対照表(バランスシート)
資産の分類と評価:
流動資産、固定資産、投資その他の資産等を適切に分類し、適時適切に評価します。この過程では、特に資産の過大評価を避けることが重要です。
負債の分類と管理:
流動負債と固定負債を適切に分類し、見積りを含む将来の支払金額を計上します。この過程では、特に負債の網羅性確保、簿外債務の排除徹底が重要です。
純資産の明確化:
株主資本、資本剰余金、利益剰余金等を発生源泉別に計上します。
2.2 損益計算書
売上高の計上:
収益認識会計基準に従い、売上高を正確に計上します。
費用の分類と計上:
製造原価、販売費及び一般管理費、研究開発費等を適切に分類し、正確に計上します。
各利益の明示:
売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益を明確に示します。
2.3 キャッシュ・フロー計算書
営業活動によるキャッシュ・フロー:
通常の営業から発生するキャッシュ・フローを明確にします。
投資活動によるキャッシュ・フロー:
固定資産や有価証券の購入・売却等による収益獲得のための資金投下活動のキャッシュ・フローを明確にします。
財務活動によるキャッシュ・フロー:
借入金の増減や株式発行等による資金調達関連のキャッシュ・フローを明確にします。
2.4 株主資本等変動計算書
株主資本等変動計算書は、企業の純資産の変動を示し、各純資産項目の変動、すなわち株主資本、資本剰余金、利益剰余金等の各項目の変動を詳細に示すことで株主資本の変動要因を詳細に説明し、透明性を確保します。
3.IPO準備における内部統制の強化
IPO準備において、内部統制の強化も欠かせないポイントです。
3.1 職務分掌の徹底
内部統制の基本はダブルチェックによる内部牽制であり、人的・組織的にあらゆる業務が実施者とは別の視点で確認・承認されるよう、職務分掌を徹底して行う必要があります。
3.2 内部監査の実施
定期的な内部監査を実施し、経理処理や財務報告の適正性を確認します。不正行為やミスを防止するための改善策を講じます。
3.3 コンプライアンスの徹底
法令遵守と社内規程の徹底を図ります。これには従業員研修の実施も含まれます。
4.情報開示とIR活動
適切な情報開示とIR活動を通じて、投資家や市場の信頼を獲得できるよう積極的に活動します。
4.1 情報開示
財務情報の適切な開示:
四半期ごとの決算短信や各種報告書を適時に公開し、透明性を確保します。
リスクの開示:
企業に関連するリスク情報(市場リスク、法的リスク等)を適時適切に開示し、投資家の理解を深め信頼関係を構築します。
財務情報の遅延:
決算短信や各種報告書の開示地縁は、投資家からの信頼を大きく損なう原因となります。監査法人や各専門家とも協力しながら、適時開示を確保します。
4.2 IR活動
投資家説明会の実施:
定期的に投資家説明会を開催し、企業の活動状況や経営方針を説明します。
広報活動の強化:
オンラインやオフラインでの広報活動を通じて、投資家とのコミュニケーションを積極的に図ります。
まとめ
IPO支援に関連した経理処理や財務書類作成では、以下の点が重要です。
1.資産・負債の適正な評価と管理
2.信頼性のある財務書類の作成
3.内部統制の強化
4.情報開示とIR活動
これらを、監査法人、公認会計士、税理士法人、弁護士、社会保険労務士などの専門家による経理、税務、法務、会計、財務の各種サポートを受けながら徹底することで、IPOプロセスの成功を手にすることにさらに近づきます。さらに詳細な情報や具体的な案件ごとのご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。
おわりに
貴重なお時間、最後までコラムをお読み頂き、誠にありがとうございました。弊社はデロイトトーマツ出身のメンバーで構成されたプロフェッショナルチームによる20年以上の経験を活かした、質の高い税務サービスやコンサルティングサービスを提供しております。お客様のお悩みに併せて案件の大小、事務所の規模感問わずこれまでに多くの企業様の税務課題を解決し、ビジネス成長をサポートしてまいりました。お読みいただいたご感想、またちょっとしたことでもIPOに関するご質問や、サービス紹介/コンサルティング&サポート/税務・会計顧問に関するご検討事項ございましたら、こちらのお問合せページから何なりとご連絡を頂けましたら幸いです。
この記事を書いた人

共同代表
(公認会計士・税理士・CFP)
熊谷 和哉
2000年有限責任監査法人トーマツ入社、上場会社の会計監査とともに、会計基準対応・IPO支援・内部統制構築等アドバイザリー業務に従事
2021年、20年超所属したトーマツ退社後、これまでの経験・知見を活かして自らが主体となるべく、デロイト トーマツ出身者を中心とした税理士法人・会計コンサルティングファームであるコンフィアンスグループを設立し共同代表として参画