トピックス
IPOと内部統制

<今回のコンフィアンスコラム>
みなさまは「内部統制」と聞くと、どのような印象を持つでしょうか。「めんどくさい」、「日々の業務の邪魔」、「会社から言われたからやる」、そんなネガティブな印象を持つ方が多いのではないでしょうか。
しかし内部統制は、本来、投資家を満足させ、経営者がリスクを取って経営へ打込め、従業員を守り、会計監査の価値を高める、資金調達やブランド価値向上の大きな機会を提供するIPO(新規株式公開)を目指す企業にとって、大変ポジティブな効果をもたらすことが出来る重要なツールです。
そこで今日はIPO準備会社を念頭に、投資家目線、経営者目線、従業員目線そして監査人目線、それぞれから内部統制の重要性について考えてみます。
1.投資家目線
(1)リスクの軽減
投資家は、内部統制が効果的に機能している企業は、財務の不正や誤謬のリスクが低く、経営上の予期せぬ問題が発生する可能性が低いと判断します。
(2)財務・会計・税務の透明性
内部統制が強固であると、財務報告が正確で透明性が高いと認識されます。投資家は、企業の財務状態を正確に理解するために、信頼性のある情報を必要とします。透明性が高いと、投資家の信頼が増し、企業の評価が向上します。
(3)経営の信頼性
内部統制が整っている企業は、経営陣がリスク管理とコンプライアンスに対して責任を持っていると見なされます。これにより、投資家は経営陣に対する信頼を持ちやすくなり、長期的な投資を考慮する可能性が高まります。
(4)パフォーマンスの持続可能性
強固な内部統制は、企業が持続可能な成長を遂げるための基盤です。投資家は、内部統制が適切に機能している企業を、持続可能な利益成長が期待できると評価します。
(5)規制対応力
IPO後は、企業は継続的に規制当局からの監査や報告義務を果たさなければなりません。内部統制がしっかりしている企業は、これらの規制対応をスムーズに行う能力があると評価され、投資家にとって安心材料となります。
(6)企業価値の向上
内部統制が強化されている企業は、市場においてより高い評価を受ける可能性があり、IPOの成功後も株価が安定しやすいです。これにより、投資家は長期的なリターンを期待できます。
総じて、投資家は内部統制を企業の健全性と信頼性を示す重要な要素と捉え、投資の判断材料として重視します。
2.経営者目線
(1) リーダーシップの発揮
経営者自身が内部統制の重要性を認識し、率先して取り組む姿勢が組織全体の意識向上につながります。
(2) 組織文化の醸成
コンプライアンス意識や透明性を重視する組織文化を育成することが、不正防止や業務効率化に寄与します。
(3) 継続的な改善
内部統制は一度構築すれば終わりではなく、環境の変化や事業拡大に応じて継続的に見直し・改善を行うことが必要です。
IPOは企業の成長にとって重要なステップですが、その成功には経営者のリーダーシップの下、適切な内部統制の構築と運用が不可欠です。内部統制を強化することで、企業の信頼性を高め、持続的な
成長と発展を実現する基盤を築くことができます。
3.従業員目線
(1) 業務遂行の指針
内部統制は、従業員が業務を遂行する上での指針となります。全従業員がその重要性や意義を理解し、日々の業務で遵守することが求められます。
(2) リスク評価と対応
従業員一人ひとりが、業務上のリスクを適切に評価し、対応する能力を持つことが重要です。内部統制を通じて、全社的なリスク管理体制が構築されます。
(3) 統制活動への参加
経営者の方針に沿って業務を遂行するため、従業員は自身の権限や職責を明確に理解し、業務範囲を遵守することが求められます。これにより、業務ミスや不正の防止につながります。 そして、内部統制を遵守することで、例え自分とは関係ないところで不祥事が起きたとしても、自分は内部統制を遵守していたと胸を張って主張することで不必要なトラブルに巻き込まれず自らを守ることにつながります。
IPOは、企業の成長と発展に寄与する一方、従業員にも多くの変化をもたらします。内部統制の強化は、企業全体の健全な運営を支える基盤であり、従業員一人ひとりの理解と協力が不可欠です。全従業員が内部統制の意義を理解し、日々の業務で実践することで、企業の持続的な成長と信頼性の向上に貢献することができます。
4.監査人目線
(1)内部統制の評価と助言
監査人は、企業の内部統制の設計や運用状況を評価し、必要に応じて改善点を指摘します。これにより、企業は上場基準を満たすための体制整備を進めることができます。
(2) 財務諸表の監査
直近2期分の財務諸表について、適正かつ法令に準拠して作成されているかを確認します。これは、上場審査において重要な要素となります。
(3) 内部統制報告書の監査
上場後、企業は内部統制報告書を提出する義務があります。新規上場企業は、上場後最初に到来する事業年度末から内部統制報告書の提出が求められますが、上場後の3年間は公認会計士による監査の免除を選択することが可能です。ただし、社会・経済的影響力の大きな新規上場企業(資本金100億円以上、または負債総額1,000億円以上を想定)は監査の免除の対象外とされています。
会計監査の視点から、IPOにおける内部統制の整備は、財務報告の信頼性確保や法令遵守の徹底に不可欠です。監査人の助言を活用し、適切な内部統制を構築・運用することで、企業は上場後の持続的な成長と市場からの信頼を獲得することができます。
最後に
貴重なお時間、最後までコラムをお読み頂き、誠にありがとうございました。
お読みいただいたご感想、またちょっとしたことでもIPOに関するご質問や、サービス紹介/コンサルティング&サポート/税務・会計顧問に関するご検討事項ございましたら、こちらのお問合せページから何なりとご連絡を頂けましたら幸いです。
この記事を書いた人

共同代表
(公認会計士・税理士・CFP)
熊谷 和哉
2000年有限責任監査法人トーマツ入社、上場会社の会計監査とともに、会計基準対応・IPO支援・内部統制構築等アドバイザリー業務に従事
2021年、20年超所属したトーマツ退社後、これまでの経験・知見を活かして自らが主体となるべく、デロイト トーマツ出身者を中心とした税理士法人・会計コンサルティングファームであるコンフィアンスグループを設立し共同代表として参画